全日本ピアノコンクール

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C級1位

白石萌々音さん

C級1位は、中学1年生の白石萌々音さんです。予選を同率1位で通過し、本選は高難度のショパンを選曲、パッションを感じる演奏が評価されました。 C級1位は、中学1年生の白石萌々音さん

 関西にあるご自宅へお邪魔すると、寝不足気味だという萌々音さんとお母さん。最近出場した海外のコンクールの結果発表が行われ、時差の関係で明け方の4時近くまで起きていたとのこと。気になる結果は…見事、優勝。今年の夏には、ワシントンで演奏する機会を得たそうです。

 全日本ピアノeコンクールへの出場は、予定していた演奏会はじめ、初のソロリサイタル、初のコンチェルト、出場を決めていたコンクールの全国大会、と軒並み中止になったことがきっかけでした。
 一方で、練習する時間だけはたっぷりとある。その成果を試せて、モチベーションをキープできる場所を探していたところ、インターネットの検索で見つけたそうです。中学生部門という括りの中では、体格や音の強さで中学3年生の男子にかなうわけがないけれど、「経験を積む」という観点で挑戦することに決めました。

 これまでも数々のコンクールで華々しい成績を収めてきた萌々音さん。ピアノを始めたきっかけは3歳上のお兄さんの姿でした。すごく楽しそうに弾く様子を見て、自分もやってみたいと思ったのが、4歳の時。はじめてみると、練習用の教本を易々と仕上げ、先生にも驚かれるほど。保育所にいるころからソナタやエチュードを弾き、与えられる課題を次々と吸収、そのうちに出場するコンクールで賞をもらうように。気がつくと萌々音さん自身も、ピアノに本気で取り組むようになっていました。

 「先生が本当に素晴らしいんですよ、どんな些細なことでも褒め上手な先生で。こんなふうに弾いたら先生が喜ぶかな、たくさん譜読みして先生を驚かせたいなという気持ちが根底にあって、先生が喜んでくれたら、また次も! と頑張れる」とお母さん。

 ピアノをはじめてからずっと同じ先生のレッスンを受けていますが、「いい意味で放出してくれる」タイプで、外部の様々なセミナーやマスタークラスなどに参加。そこで萌々音さんが得たことを持ち帰り、先生と一緒に消化する、という理想的な関係が築かれています。
 そうやって曲に向き合う中で、一番好きな工程をたずねると「仕上がっていっている、という感覚がすごく好き」と萌々音さん。中学生になり、教えられたことをそのまま表現するのではなく、自分の色を出すようになってきたと言います。

 さらに、「自分の強みは、どんな曲でもその曲を楽しんで弾こうと集中できること」。緊張するコンクールでも、必ず最後は笑顔でお辞儀することを心がけているそうです。本番では小さなミスをすることもありますが、内面から湧き出るものが聴いている人に伝わり、それが評価につながるのだと最近では感じています。

 全日本ピアノeコンクールのエントリーの際には、審査員の顔ぶれもポイントになったとお母さん。国内では初めて出場するオンラインコンクールとあり、どんな先生が審査するのかということはやはり気になったそうです。審査後に届いた講評は、用紙にぎっしりとコメントが書き込まれ、細かい点までアドバイスしてくれたりと、ありがたい気持ちでいっぱいになったと振り返ります。

 予選を順当に通過、本選は出場者全員が同じ環境で演奏しましたが、待合室で聴いていたお母さんは、萌々音さんが「すごくリラックスして演奏しているな」と感じたそうです。1位という結果には正直驚いたものの、当初の目的だったモチベーションアップには効果てき面だったとのこと。ご家族で大喜びしました。

C級1位は、中学1年生の白石萌々音さん

 平日は、6時間をピアノの練習に充てています。ご飯を食べる時間や、お風呂上りに髪の毛を乾かす時間も惜しいほどで、学校の課題よりも先にピアノを優先する生活です。
 とはいえ中学1年生。学校で大変なことがあったり、疲れていたり、ピアノ以外の不安を抱えるような時は、ピアノの練習に気持ちが向かないこともあります。

 でも、いい時とわるい時があるのは当然のこと。その中で、人との出会いに恵まれ、世界が広がっていくのを感じるからこそ、ストイックな生活も受け入れることができています。

 「外国に行って世界を知ることは大事。早いほうが身につくと思うし、自分自身も試してみたい」と萌々音さん。近い将来、短期留学も考えています。「国語と英語だけはきちっとやっておかないとね」とお母さん。楽譜やCDを用意してくれたりととても協力的で、ご家族の期待やエールを感じます。年齢的に今は大切なトレーニング期間と捉えて、どこのピアノよりも調整を重くしているそうです。

 萌々音さんに将来の夢をたずねると…「先生みたいになりたいと思う気持ちもあるし、コンサートに出て人の心を動かせるような、人の役に立つようなピアニストになりたいなと思っています」。

 その思いを強くしたのは、昨年夏の出来事です。イタリアにあるイモラ音楽院のサマーフェスティバルでコンサートに出演したところ、萌々音さんの演奏をとても気に入った医師として働く方が、その後勤務先のコロナ対応病院でコロナに感染したのです。萌々音さんは「私には何もできないけれど、ピアノであれば」と、ノクターンの演奏動画を送りました。医師はとても喜んで病室でずっと観賞、快復にもつながったそうです。この出来事が、「自分の演奏が、人の役に立てる、人を喜ばせることができる、人を癒すことができる」と強く感じるきっかけになりました。そして何より、「音楽は言葉を超える」と。

 冒頭のコンクールも含め、最近は海外のコンクールにも積極的にチャレンジしている萌々音さん。コロナの影響でオンラインでエントリーできるコンクールが増えたことも要因です。これまでは現地へ赴かなくてはいけなかったり、お母さんのお仕事の調整をしなくてはならなかったりと、海外のコンクールへ出場することに足枷があったそうですが、オンラインで開催されるようになったことで世界が広がったと言います。コロナの感染拡大でモチベーションを保つことに難しさを感じた時期もありましたが、「逆に世界で活躍できるチャンスをもらえた」と、今は前向きです。

C級1位は、中学1年生の白石萌々音さん

‟音楽の力”と表現するのは簡単ですが、萌々音さんの体験は、その言葉に特別な意味を持たせるものです。世界に大きくはばたいたその先に、萌々音さんのどんな演奏が待っているのでしょうか。きっと私たちにも、これまで見られなかった景色を見せてもらえることと思います。ワクワクしますね。その日がとても待ち遠しくなるインタビューでした。